ペットの防災に関するインタビュー

今井 由江さん

ペットと共に災害を乗り越えるため
いまから準備してほしいこと

防災総合ペット育成協会 理事/ドッグライフカウンセラー/
神奈川県動物愛護推進員
今井 由江さん

災害が起こった時、被災するのは人だけではありません。多くのペットも飼育者とはぐれたり、ケガをしたり、命を脅かすような危険と隣り合わせになります。そんな災害を乗り越えるためになにをするべきか、ペット防災の啓発に取組む今井由江さんにお話を伺いました。

今井 由江さん
防災総合ペット育成協会 理事、ドッグライフカウンセラー、神奈川県動物愛護推進員。行政や地域と連携したペット防災イベントの企画や、防災セミナーの実施など非常時に備えるための啓発活動を行うほか、専門学校での講義など次世代育成にも注力している。

まずは飼育者の方が生き残ること

大切なペットを救うことができるのは、飼育者の方だけ

今井由江さん

――今井さんは、ペット防災啓発のため、イベントやセミナーを何度も実施されています。そんな今井さんが最も力を入れてお伝えしていることはなんですか?

まずお伝えしたいのは、ペットが生き延びるためには、飼育者の方が生き延びることがとても重要だということです。
人命が尊いのはもちろんですが、まずは飼育者の方ができるだけ怪我をせず、生き残らなければペットを救うのが難しいからです。発災時の基本は「自助」です。
災害などが発生し、非常時に突入すると、最初の72時間をすべてのことがとにかく人命救助にあたります。
ペットの支援に入りたい団体がいても、災害地区へ入る許可すらおりません。飼育者の方がいなくなってしまったペットや放浪動物を保護するような活動は「愛護」の領域になるため、どうしても後まわしになります。

人と一緒に避難したペットを支援するのは「防災」の領域、人とはぐれたペットを保護するのは「愛護」の領域

人と一緒に避難したペットを支援するのは「防災」の領域
人とはぐれたペットを保護するのは「愛護」の領域

ペット防災展示とペット防災セミナーの様子

ペット防災展示とペット防災セミナーの様子

地域ごとに災害への備え方は変わってくる

――災害が起こった時にすぐペットのために動けるのは飼育者だけなのですね。飼育者の方は、災害を生き延びるためにどのような準備が必要でしょうか。

居住されている場所が、川、海、山、どこに近いのかといった土地の特徴による違いがありますので、ハザードマップなどを利用して、自宅周辺や勤務地周辺にどのような災害が発生するリスクがあるのか確認しておくことが第一の備えです。
他にも、戸建てが多いエリアか、マンションが多いエリアかといった違いもありますね。

戸建てが多いエリア

共助はしやすいが家屋の倒壊などにより、避難所に行く可能性が高くなるため、避難所の運営はどうなのかを確認しておくことが重要。

戸建てが多いエリア

マンションの多いエリア

どこにだれが住んでいて、誰がペットを飼育しているのかなどが見えにくく、地域のつながりが薄くなりがちなので共助しにくい。

マンションの多いエリア

「在宅避難」できる環境を整える

避難所では人が優先される

――推奨される避難方法はありますか?

私は「在宅避難」できる環境を整えておくことをお勧めしています。
もちろん避難所に行く場合はペットを連れて避難していただきたいのですが、ペットと同行避難をしても、ペットと同じ場所で過ごせるとは限りません。
平時ではペットと同行避難ができるとされている避難所でも、有事の際は、人命優先などの理由によりペットが受入不可になってしまうこともありますし、最初はペットと避難所で過ごせていても、後から避難所を出て欲しいと言われてしまうこともあります。そうしていくつもの避難所を転々とするしかなかった方の話を聞くこともあります。
避難者の中には幼児や高齢者、体調の悪い方、障がいのある方など、様々な方が同じ場所を共有します。その上、避難所を運営する側もペットの知識が少ないこともあり受け入れが難しくなります。「ペットを家族として受け入れて」といったムリが言えない環境になります。

避難所の物資は、避難してきている人に優先して提供される

――必ずしもペットと一緒に避難所で過ごせるとは限らないのですね。

そうなんです。こうしたリスクがあることも知っていただき、「在宅避難」できるよう、人とペットに必要な十分な食料と水をストックしておいていただきたいですね。
これもあまり知られていませんが、支援物資や炊き出しは避難所にいる人が優先されるため、在宅避難者は配布が遅れる可能性が高いです。給水車による水の提供は受けられますが、給水車は避難所にしか来ないため、避難所と自宅の間を、徒歩で水をもって運ぶのはかなり大変です。

避難所の物資 避難所の物資

避難所の物資

「在宅避難」をするために

――確かに徒歩で物資を運搬するのはかなり大変でしょうね。他にも在宅避難をするうえで注意することはありますか?

私は講演などをする際、いつも「在宅避難のための3か条」をお伝えしています。
地震は予知ができませんが、水害は予報で早めの避難準備をすることができます。水害の危険をさけるため、できる限り避難に役立ててほしいと思います。

在宅避難のための3か条

① 十分な食料と水があること

飼育者とペットの1週間分が最低ライン。
できれば1か月分をローリングストックしましょう。

十分な食料と水があること

② 耐震家屋に住んでいる=100%安全ではないと意識する

飼育者が不在の時に災害がきてもペットが生き残れる環境を整備しましょう。

耐震家屋に住んでいる=100%安全ではないと意識する

③ 災害想定を調べる

浸水深、ハザードマップ、避難所を確認しておきましょう。

【以下をチェック】
・家屋倒壊氾濫想定区域に入っていないか
・浸水深より居室は高いか
・水がひくまで我慢できる場所か

同伴避難

――「在宅避難のための3か条」について詳しく教えてください。

まずは先ほどもお伝えしたように「①十分な食料と水があること」が重要です。最低でも、飼育者とペットが1週間生活できるだけの量を用意しましょう。
次に②ですが、これは自宅が100%安全とは限らないという想定で、平時のうちに対策を取りましょうというお話です。まずハザードマップで地域の危険を確認して、在宅避難ができるのかどうかを改めて確認してください。
そして、必ずやっていただきたいのが、飼育者が不在の時に災害が来てもペットが生き残れる環境の整備です。ペット(特に猫)は災害時、恐怖を感じると本能で隠れようとします。その隠れる場所が安全な場所なのかを確認しておくことが重要です。
まずは以下のようなポイントをチェックしてみてください。

飼育者が不在でもペットが生き残れる(怪我を避けられる)
環境になっているかのチェックポイント

ペットが隠れられそうな隙間はどこか、そこに不安定な家具や観葉植物が置かれていないか。

不安定な家具や観葉植物が置かれていないか

小動物のゲージが机の上など高い位置に置かれていないか。

高い位置に置かれている場合は、地震で床に落ちないようバンドなどで固定されているか。

小動物のゲージが机の上など高い位置に置かれていないか

ペットのゲージの上に落ちてきそうなものは無いか。

ゲージやクレートに逃げ込むペットもいます。しっかり確認してあげましょう。

ペットの上に落ちてきそうなものは無いか。

ペットと同じ高さ、目線になって家の中を見渡して確認しましょう。

ットのゲージの上に落ちてきそうなものは無いか。ペットの上に落ちてきそうなものは無いか。

ペットが恐怖を感じて隠れようとした結果、いつもは入らないような隙間に入ることもあります。家具や観葉植物の下敷きになって亡くなることも多いです。ペットと同じ目線になって、改めて家の中を見渡すと、上から落ちてくるものが思った以上にあることに気が付くと思います。こうしたものは落ちないよう固定しておく必要がありますね。
うさぎ、モルモット、ハムスターなどの小動物は、人間の目線に合わせた高い位置にクレートが置かれていることも多く、クレートが落下して亡くなることも多いです。必ず固定してあげてください。

在宅避難のための3か条、最後は「③災害想定を調べる」です。ここでは、浸水深、ハザードマップ、避難所を確認しておいていただきたいと考えています。例えば、浸水した場合、自宅にいながらにして溺れる可能性もあります。そういったリスクを把握しておかなければ安全に在宅避難ができません。
また、水害や地震などで在宅避難が難しく、ペットと同行避難せざるを得なくなった時に備えて、避難所の確認をしておくことも必要です。地震と水害では、開設される避難所が異なる場合があるので注意して確認してください。
そして、地震用と水害用2種類の災害時タイムライン(避難計画)を作っておくと安心です。地震用と水害用それぞれで、どこの避難所に行くか、どういうルートで行くのかを決めておきましょう。災害時は車での避難が難しい場合もあるので、徒歩など自力で避難できる方法を考えておきましょう。

適正飼育ができているか

可愛がることが適正飼育ではない、共助の視点を持とう

――避難所へ同行避難することも想定して準備しておくことが必要なのですね。避難所で過ごすにあたり、心掛けるべきことはありますか?

避難所は多くの方が助け合って過ごす場所です。そこで大切になるのは、適正飼育ができているかどうかです。
適正飼育とは、ペットの健康と安全を守り、人に迷惑をかけないように飼養することを指しており、クレートに入れるなどしつけをすることも適正飼育の一環です。単にペットを愛情深く可愛がっていればいいということではありません。
また、これも必ず行っていただきたいのが、狂犬病や混合ワクチン接種です。ワクチンは自分のペットのためだけに行うものではなく、同じ場所で避難生活を送る他のペットやひいては人間の健康を守るために欠かせないものです。

避難所の飼い主同士で犬を清潔にする

避難所の飼い主同士で犬を清潔にする

お天気の良い日、飼い主全員でクレートの大掃除

お天気の良い日、飼い主全員でクレートの大掃除

災害時を疑似体験しておく

必要なもの、本当に全部リュックに入りますか?

――避難所で安心して過ごすためにも、平時から共助の視点をもって適正飼育に励みます。これで安心して避難所に行くことができるでしょうか?

最後にもう1点だけやっておいていただきたいのは、災害時の疑似体験です。実際に避難体験してみることで、本当に必要なものはなにか、自力で持っていける限界量はどのくらいなのかを確認しておいていただきたいのです。

災害時に必要なものを調べていただくと、さまざまなものが紹介されていると思います。それが用意できているかももちろん大切です。ただ、用意しただけではいざという時に使えない可能性もあります。
例えば、用意したものが、本当にリュックに入るのかやってみたことはありますか?
入ったとして、本当に避難所まで歩いて持ち運べる重さでしたか?
こうした点まで確認できていないと、いざという時に困ってしまいますよね。そのためにも、自治体の避難訓練などを活用し、災害時を想定して避難してみましょう。想像と違った、という気付きがきっとあるはずです。
自宅近くのペットと一緒に行ける避難所を予め調べておいて、雨の日にペットを連れて歩いてみることも避難練習になります。災害時は避難に時間がかかります。避難にかかる時間を想定して、いち早く避難行動ができるようマイタイムラインも作成しておいてください。

日本レスキュー協会で災害救助犬と一緒に訓練をした様子。

日本レスキュー協会で災害救助犬と一緒に訓練をした様子。荷物と水、犬・猫のクレートを持つと総重量は20kg近くになります。怪我をした状態で荷物を持って瓦礫の中を歩く歩行訓練もしました。

――貴重なお話をお伺いさせていただき、ありがとうございました。

(インタビュー実施日:2023年10月30日)

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