ペットの防災に関するインタビュー
災害が起こった時、被災するのは人間だけではありません。多くのペットも飼育者とはぐれたり、飢えや厳しい気候との闘いなどに直面します。そんな災害現場の最前線で、動物レスキュー活動に取組む西澤さんにお話を伺いました。
西澤 ひと美さん
一般社団法人民間災害時動物救済本部(略称CDCA)代表理事
3.11発生時に支援に訪れた飯館村の現状に衝撃を受け、動物レスキュー活動を開始。
2015年に一般社団法人民間災害時動物救済本部を設立。以降、日本全国の災害現場で活動を続ける。
初めて飯館村を訪れた時、凍えて亡くなった猫に出会った
――西澤さんが動物のレスキュー活動に取組まれるようになったきっかけを教えてください。
私は元々、一般のペット飼育者でした。ですが3.11が発生したとき、自分もなにかしなければいけないと感じ、気づけば自動車などを手配して、ペット救助のため飯館村へ向かっていました。
東北の冬はとても寒さが厳しく、初めて救助に入った飯館村で出会ったのは、無数の「もみがらの袋」が食いちぎられた納屋の中で凍死した猫でした。大きな衝撃を受け、どうしてもっと早く来てあげられなかったのだろうと悔いました。
それが1つの大きなきっかけとなり、一般のペット飼育者からレスキュー活動へ転身しました。
――現在も飯館村での活動を継続されていますね。
はい。状況に応じて支援の内容も少しずつ変わっていきますが、現在に至るまで不妊去勢や給餌を行ったり、暑さに耐えるための日よけ設置、寒さを乗り越えるための小屋設置、保護・譲渡などの活動を主に行っています。
飯館村の現状
――飯館村は、現在も支援が必要な状況なのですか?
そうですね。不妊去勢をしていないペットを連れて帰村されている方や、出入りの自由な状態で飼育されている猫がいたりしますし、遺棄などの影響もあり子猫が増加している現状があります。
こうした状況を改善していくために、不妊去勢手術の啓蒙啓発からさらには実践へと導く活動、また、高齢となった猫の保護活動を行っています。
飯館村の支援はまだ終わらないと思っています。
災害時はペットとの同行避難が原則
――数多くの災害現場を見てきて、災害によるペットの不幸を防ぐために少しでもできることを教えてください。
飼育者の方にこれだけはお願いしたいなと思うことが3点あります。こちらです。
同行避難
所有者の明示
不妊去勢手術をしておく
――まずは「ペットとの同行避難」がポイントということですね。
その通りです。今は環境省でも、災害時はペットとの同行避難を原則としています。これをまず知っておいていただきたいですね。
3.11の際は、実際に避難できる状況なのかどうか以前に、ペットと同行避難できる避難所があるということを知らない方も多かったのです。
そのため、ペットと一緒に避難できることを知らずに一度避難し、後からペットを迎えに行く方もいました。そのため海沿いの地域では、津波に巻き込まれる悲劇も起こってしまいました。
ペットと同行避難した方でも、同行避難=ペットと同じ空間で過ごせる避難ではないということを知らない方も多くいらっしゃいました。
同行避難
安全な場所までペットと一緒に避難することを示す言葉が「同行避難」。
同伴避難
同行避難後に、飼育者が避難所でペットを飼養管理すること(状態)を示す言葉が「同伴避難」。
※同伴避難は、飼育者がペットと同室で一緒に過ごせるということではありません。ペットがどのような環境で過ごすことになるかは、避難所によって異なります。
自宅周辺の避難所が同行避難後、同伴避難可能なのか、避難所でペットがいる場所は屋内なのか屋外なのかを確認しておけば、仮にペットが屋外で過ごす場合、冬であればクレートの中を温かくできるように工夫するなど気候に応じた対応をすることでペットを守ることができます。
早めの避難を心掛ける
――避難所でペットが過ごす環境を知っておくことが大切ですね。他にも注意することはありますか?
そうですね。早めの避難を心掛けることも重要です。
可能であればペット連れでの避難は、「高齢者等は危険な場所からの避難が必要」とされる警戒レベル3の時点で行いたいですね。多くの人が避難をする前であれば、避難所の運営側にもゆとりがありますし、避難所に行ったからといって必ず入れるとは限らないので、早め早めの行動が重要になります。
スムーズに避難できるとは限らない
――確かに、ペットを連れての避難は時間もかかりそうです。
本当にその通りなのです。平時に想像している以上に、時間がかかる可能性が高いです。
たとえば、非常時に動物、特に猫は本能的に狭いところに隠れることがあります。物陰に入り込んでしまい捕まえられない、いつもはすんなり入れられるはずのキャリーに中々入れられない、ということも起こります。
犬の場合ですと花火に驚いた時のように腰を抜かして飼い主にくっつく子も多いのですが、猫は特に捕まえるのが難しいことがあるので注意が必要です。
万が一どうしても同行避難できないときは、パニックにならずに、まずは自分の命を守ってください。必要であれば、ご自身だけでまずは避難してください。ペットを守れるのは飼育者の方だけなので、ペットを守るためにも飼育者の方がしっかり自分の命を守るための行動をとりましょう。それから家に戻りペットが迷子になっていないかケガをしていないかを確認してください。
津波などの水害にどう対応するか
――水害の際は、後からペットを迎えに行くのが非常に困難になると聞いたことがあります。
やはり津波・水害の場合、後からペットを迎えに行くことは非常に困難になります。今別れたらもう二度と会えないという覚悟で対応していただきたいです。同行避難できるのであれば、もちろん同行避難してください。
どうしても同行避難できないなら、少しでも部屋の高いところへペットを上げてあげてください。特に高齢のペットは自力で上がれないことがあります。
また、台風や大雨などによる水害では、夜間に雨脚が強まることも多いです。寝ていたために水かさが増していることに気が付くのが遅れ、雨が強いと感じて外に繋いでいるペットを見に行った時にはすでに流されていなくなっていた、という話も聞きます。水害では、予報にしっかり耳を傾け、明るいうちに避難する、ということを心掛けてください。
保護されても飼育者の分からないペットたち
――飼育者の方にお願いしたいことの2点目が「所有者の明示」ですね。
はい、実際の災害現場では、首輪はしているが何も書かれておらず、所有者が分からないペットが多数いました。犬でも、狂犬病ワクチンの鑑札や注射済票を付けている子が少なかったのが現実でした。
とっさのときはマジックで書く
――それでは、ペットを飼育者のもとに返してあげたくても難しくなってしまいますね。
そうなんです。万が一はぐれたとしても、再会できるように、今からすぐに対応していただきたいです。
まず、犬であれば普段から鑑札と注射済票をちゃんと装着しておく。不妊去勢手術で麻酔をするタイミングでマイクロチップを挿入することも必要です。
災害が今まさに起こってしまったという時は、とっさに首輪にマジックで連絡先を書くだけでもしてください。
所有者・連絡先不明のペットは、飼育者を見つけることが非常に困難です。
はぐれたペットが繁殖することで不幸を招く
――飼育者の方にお願いしたこと、最後となる3点目が「不妊去勢手術」ですね。
是非お願いしたいです。不妊去勢手術は、不幸な犬や猫を生み出さないために非常に重要なことなのです。
災害時に飼育者とはぐれ、野良猫や野良犬が増加すると、猫は共食いをしてしまうこともあります。犬は群れを作って野犬化し、人間が恐れを抱くほどの大きな群れになることもあります。不幸な子を生み出さないためにも、災害でペットとはぐれる可能性も想定して、不妊去勢手術をしておいてほしいと思っています。
普段から地域とのつながりを大切にする
――非常時に備えて、今からできることは沢山ありますね。他にも、普段から心掛けておくといいことはあるのでしょうか?
やはり、普段から地域の方々との繋がりを大切にして暮らすことを心掛けていただくのがいいですね。
例えば、近所の方に、「あの子大丈夫かしら?」とペットの心配をしてもらえるような関係を築いておくことができれば、いざという時ペットとの「同行避難」を少しでも受け入れてもらいやすくする土台作りになりますよね。
そのためには、散歩のときの挨拶や、マナー遵守、しつけがきちんとできている様子を見せておくことが大切です。
猫の場合、散歩はありませんが、地域でTNR活動などに参加すると自治会や行政とつながる場ができますよ。
ペット飼育者同士の横のつながりも作っておく
――近隣で繋がりを作りにくい環境の場合はどうしたらいいでしょうか?
お散歩などで地域のペット飼育者の方と交流することはもちろん素晴らしいことですが、SNSなどを通じてもペット飼育者の方との繋がりを作ることができます。繋がりを作っておけば、困ったときはお互い様の精神でお互いのペットを預けたり、預かったりと助けあえますよ。
災害の規模によって、避難方法を柔軟に検討する
――たしかに、SNSなどを通じて繋がりをつくっておくと、いざという時も安心できそうです。
SNSなどで遠方に住むペット仲間ができると、とても心強いですよね。
たとえば、災害の規模や内容によって、避難方法を柔軟に検討することができるようにもなります。
在宅避難、ペットホテル、ペット仲間や親せきに預けるなど選択肢が広いほど、適切な方法を選びやすくなりますから、いざという時にペットをお願いできるような関係性を、平時のうちに築いておけるといいですね。
これはあまり持たれていない視点かもしれませんが、災害時は行政職員も被災者になるんです。
それに、高齢者や子供など支援が必要な人もたくさん出てくるので、行政としてはどうしてもそちらを優先して対応することになります。
行政が何とかしてくれるはずだと思わず、ペットの命を守れるのは飼育者のみだと認識して準備しておくことを意識していただけたらなと思います。
――最後に、災害レスキューの現場について、読者の方に知っていただきたいことはありますか?
災害が多発する中で、1つ1つの災害の風化を防ぐことは難しく、飯館村の支援も先細りが続き、毎月赤字となっております。
例えば、飯館村の給餌は当初120件以上だったのですが、現在は20件ほどになってきています。
しかし、現地に行くための交通費などは変わらないので、給餌数が減少しても経費は同じようには減少しません。
突然起きた災害に対応するにも交通費などが必要ですが、災害が起こる前の寄付、いざという時に備えた寄付というのは日本ではあまり浸透していません。
非常時に速やかに動く機動力を維持するためにも、こうした備えのための寄付についても理解が広まってほしいと願っています。
――貴重なお話をお伺いさせていただき、ありがとうございました!
(インタビュー実施日:2023年11月7日)